近年のデータベースの整備等により、教育の諸問題に関わる研究の情報も、その入手はきわめて容易になった。しかし、その一方で、大量の論文が生産されるようになってきた結果、主要なキイ・ワードに対するヒット件数があまりに膨大になり、かえって情報の大海の中で方向がわからなくなるという事態も生じている。「知」の世界の広がりを見通すのがなかなか難しい時代である。
そうした中で、学部学生・大学院生や、教員をはじめとする教育関係者の方々などに、特定主題に関する学問の広がりや深まりをコンパクトに伝えたいというのが、本リーディングスの大きなねらいである。
教育の諸問題は、現象の考察・分析をおざなりにして「どうするべきか」を性急に問うと、視野が狭い一面的な対応に陥りやすい。教育に関する日常の常識は、誤謬や偏見をたっぷりと抱え込んでしまいがちだからである。特に、社会的視点が欠落した教育論にそれが強い。まずは、「何が起きているのか」「現象をどうみるべきか」「どの側面からその事態を考えていけばよいのか」について、社会的視点をふまえて掘り下げる必要がある。
教育と社会の関係は、教育が社会の変化に影響を与える側面、社会が教育のあり方に影響を与える側面、教育の場や関係が一つの社会的なものとして存立している側面など、多面的である。本リーディングスは、そうしたさまざまな面をあつかった、すぐれた論文を集めて収録した。
実証的な社会科学的手法が隠れた構造や機能を明るみに出すこともある。深い思想的な洞察が、現象の背後の本質をつかまえることもある。歴史的な視点や比較という視点が、目の前の現象に固有な特徴を浮き彫りにすることもある。このような教育研究の「知」の世界の広がりが多くの方に理解され、さまざまな現象がそのレベルからとらえ直された時、教育問題をめぐる議論は、より視野が広くバランスがとれたものになるはずである。 |